〜患者様とのエピソード〜死ぬ前に焼肉を食べたい/岩下太一の自費開業日記
ある患者様との思い出のお話をさせて頂きます。
79歳というご高齢の患者様ですが、50代から約20年以上義歯をされており、これまでかかりつけのクリニックでは「インプラントは難しい」とずっと言われ続けてきたそうです。
お口の中は残根が11本、合わない義歯でずっと生活されており、口腔清掃状態は良くありませんでした。
「若い頃のような歯になんとか戻れないか?」
「食べる事へのストレスを無くしたい」
「死ぬ前に焼き肉を食べたい」
「なんでも食べれるようにして欲しい」
ご高齢ですが体はすごく健康だからこそ、食事という人生の楽しみを満足できないことへのストレスが大きかったのだと思います。
だからこそ「食べたい」という意志が強く、その為の覚悟をもってご相談に来られたのです。
私も全力で治療させて頂きたいと思い、私が今まで培った技術を全て活用して治療に当たらせて頂きました。
①残根抜歯
②ゴシックアーチ、フェイスボートランスファー
③Waxトライ、暫間義歯、暫間インプラント
④サージカルガイド
⑤インプラント埋入、即時荷重、ファーストプロビ
⑥セカンドプロビ
⑦クロスマウント
⑧ファイナルセット
今回の1番の課題は「ご高齢である」ことです。
79歳の患者様にとって長時間の治療はかなり辛く、嚥下もむせることが多かったです。
しかし、本人は諦めずに食べたいという熱い思いで大変頑張ってくれました。
私もできる限り治療時間を短くできるよう事前準備を怠らず、特にインプラント手術の時間は最短時間にしようと試み、デジタルによるフルガイドインプラント埋入を行いました。
オペは8本を1時間で埋入するなどドリルの順番まで最短時間でできるようにシミュレーションを何度も行いました。
更に即時負荷でその日に噛めるようにしました。
患者様はプロビジョナルの段階で
「おーこれはすごい!」
「何でも食べれます!」
と大変喜んで下さった最高の笑顔を鮮明に覚えています。
しかし全て順調に進んでいたのですが、最後の最後に私はやってしまった事があります
それは最終補綴物の印象の時に起こりました。
奥の方の印象コーピングを外すと手からツルッと。。。
「〇〇さん、横向いてください!!!」
「あーっ!」
「ゴクン。。。」
そうです。
印象コーピングを飲み込んでしまったのです。
私は顔が真っ青になり、大丈夫ですか?
とお声がけすると患者様は平気な顔で
「大丈夫だよぉ!どうかしました?」と。。。
すぐに付き添って病院にいってレントゲンで診てもらうと、肺ではなくて胃にあったので、その場で医師が胃カメラですぐに取り出してくれて問題なく終わりました。
本当に申し訳なく、患者様もお疲れだろうな…
と思い「一緒に帰りましょうか。」とお声掛けすると、食べれる事が嬉しいようでそのまま鰻を食べに行かれました。
そして最終補綴物が入り、更に何でもバリバリ食べれると本当に喜んでくれました。
「楽しく食事ができる事でこれだけ前向きになられるんだ…」
「歯がある事でこんなに若々しく変わる事ができるんだ…」
という事を今回の患者様から沢山感じさせて頂きました。
そしてこの方から頂いた1番嬉しかった言葉は
「先生のおかげで朝から焼き肉食べれます」
でした。